ナショナリズムを相対化する文化実践の持続可能性に関する人類学的研究 ――韓国社会の事例――

平成19年度 成果一覧

本田 洋(東京大学大学院人文社会系研究科  教授)

要旨

韓国で1997年のIMF金融危機以後増加した都市から農村への移住者,いわゆる「帰農者」のなかでも,全羅北道南原市山内面一帯に定着した人々は,脱農率が低い,現地農家に占める比率が比較的高い,そして現在でも移住が継続している点で特徴的である。地元の古刹である実相寺の後ろ盾で創立された帰農学校と農場,ならびに帰農者の福利厚生関連の活動の拠点となっているNPO団体を拠点とする社会ネットワークと相互行為を通じて,彼らは有機農法や生態環境に親和的に生きる方法を学習し,さらに自らの生き方と多様なアイデンティティを創りあげることが可能となっている。この帰農者の実践共同体は,1960年代以降の韓国の国民統合を支えていた経済発展志向とそのひとつの所産である都市中産層的なライフスタイルに対する自己省察から生まれ,帰農者が独自のオルターナティヴな生き方を自らの身体をもって創出する場として機能している。これがネオリベラリズム的な政治経済体制が強まりつつある韓国社会で依然として根強い都市中産層的なライフスタイルへの志向性にどのような効果を及ぼすのかについては,今後の展開を見守らねばならない。

キーワード

韓国,帰農者,オルターナティヴな生き方,実践共同体,1997年金融危機