中国におけるブラックカーボンエアロゾルの変動

平成21年度 成果一覧

近藤 豊 (東京大学先端科学技術研究センター 教授)
竹川 暢之(東京大学先端科学技術研究センター 准教授)

要旨

ブラックカーボン(BC)エアロゾルは太陽光を効率的に吸収し、大気を加熱し地表面を冷却することで、地球の放射収支に大きな影響を及ぼす。BCは、ディーゼルエンジンの排気、石炭の燃焼、森林火災などの不完全燃焼過程から生じ、世界全体の発生量のうち、約40%をアジアが占めている。しかしながら、BCの排出量分布の推定値やその地球規模への輸送量の理解は極めて不十分であり、エアロゾルの気候影響を評価する上で大きな不確定性の一つとなっている。このため、東アジア(特に中国)のBCの排出量の評価は、その大気環境影響を評価するうえで非常に重要である。 2008年2月以降、BC濃度の高精度の測定が沖縄県辺戸岬で継続的に行われている。観測地点である辺戸岬は、中国からの汚染空気の下流域(outflow域)に位置し、周囲を海に囲まれている点から、中国大陸からの包括的な汚染空気塊の輸送を観測するのに適している。そこで本研究では、2008年2月から2009年5月に辺戸岬で測定されたBC濃度の観測データと、領域三次元化学輸送モデルによる計算結果を組み合わせることで、東アジア(特に中国)outflow域におけるBC濃度の季節変化の理解、及びその排出量分布の推定値の評価を研究目的とした。評価したBC排出量分布推定値は、Zhang et al.[2009]によって作成された2006年ベースのアジア域の年平均排出量データである。 辺戸岬で観測されたBC濃度からは、冬季(0.25(0.14-0.57) μg/m3)から(春季0.31(0.13-0.77) μg/m3および0.29(0.16-0.65) μg/m3)にかけて大きく増大し、夏季(0.14 (0.10-0.23) μg/m3)は非常に低いという傾向が見られた。また各季節内の変化に着目すると、総観規模の気象場の変化に伴う数日周期のBC濃度変動が高頻度で観測された。 領域気象モデルWRFと三次元化学輸送モデルCMAQによる計算では、総観規模の気象場の変化に伴うエアロゾル濃度変化をとらえるために、アジア全域を含む計算領域を設定した。モデル計算ではZhang et al.[2009]の排出量データ(水平解像度0.5度)を用いた。 本研究では、東アジアの中でも特にBC排出量の多い中国領域の寄与を評価するために、中国領域のみの排出量データを与えた場合の計算を行った。また、中国全体のうち北中国領域の排出の影響を評価するために、北中国のみの排出量データを与えた場合の計算も行った。BCは輸送中に湿性沈着過程を経験し、降水に伴い大気中から除去されるので、発生源での排出量を評価するためには、湿性沈着過程を経験していない空気塊を選別する必要がある。そこで、CMAQにおいて湿性沈着過程を含めた場合と含まない場合を計算し、空気塊の判別に用いた。 辺戸岬において、観測されたBC濃度とモデル計算結果を比較したところ、モデルはBC濃度の季節変動や、総観規模の気象場の変化に伴う数日周期の濃度変動をとらえていた。このことから、モデルは化学物質の輸送を一定の精度で表現できていると考えられる。モデルの計算では、年平均の排出量データを用いているので、モデル計算結果に表れたBC濃度の季節変動については、気象場に伴う輸送パターンの季節間の違いが主要な原因であると考えられる。 計算されたBC濃度の平均場の空間分布から、辺戸岬と福江島は中国outflow域の代表性があることが示唆されており、これらの地点の観測データから、モデルを介してエミッションの評価をすることが可能であることが示唆された。 また、モデルは、地上で測定されたBC濃度だけでなく、同時期に中国のoutflow域で実施された航空機観測により得られたBC濃度の鉛直分布も再現した。 大気中のBC濃度に影響を及ぼす過程は、主に排出源および輸送中の除去過程であると考えられる。BCの排出量を評価するために、先述の複数のモデル結果を用いて、中国起源かつ湿性沈着過程を経験していない空気塊を選別した。モデルが計算した中国地域寄与率は、観測されたBC濃度と相関を示した。また、辺戸と福江においてBCと同期間に観測された一酸化炭素(CO)の観測値から、モデルが計算した湿性沈着除去率と、観測されたBCCO比の相関が示された。したがって、中国地域寄与率と湿性沈着除去率を利用してBC観測値を選別する手法が有効であることが、観測データからも示唆された。 辺戸のデータから観測とモデルのBC濃度中間値を評価した結果、全観測期間において観測値に対するモデル値の比率(モデル/観測値)は1.06だった。また、データ数が確保できた季節では、季節毎のモデル/観測値を求めた。2008年春季は1.04、2008年冬季は0.91、2009年春季は0.81であった。したがって、辺戸岬の観測期間全体で評価したときに、Zhang et al.[2009]による年平均のエミッションは、概ね妥当であることが示唆された(モデル/観測値1.06で、季節間の変動が20%)。ただし、季節間の変動および北中国寄与率に着目すると、辺戸の2008年春季と2009年春季の比較では、2009年春季のほうがモデル/観測値が低く、北中国の寄与率が高かった。

キーワード

ブラックカーボン、一酸化炭素、二酸化炭素、中国

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