健康リスクの戦略的管理・コミュニケーションに関する国際共同研究

平成18年度 成果一覧

佐藤 元(東京大学大学院医学系研究科・社会医学専攻 講師)

要旨

本研究は、アスベスト(石綿)および牛海綿状脳症(BSE、狂牛病)に関する対策を事例として、日本・アジア・欧米における健康リスクの管理・コミュニケーション戦略の現状についての比較実証分析を行うことを目的とする。健康リスク管理においては、安全と安心の両者を実現することが政策目標とされるが、政策選択における科学的知見の用いられ方は多様である。リスク管理の国際協調、またBSE等の通商問題を考える上で、国家間のリスク認識の差異を十分に考慮して対処すること、また一歩進めて、これを戦略的に維持・変化させることは、国際的にも国内的にも政策目標達成の有力な手段となり得る。そのため、リスクコミュニケーションにおける科学的言説の位置づけの分析は重要である。

本プロジェクトの研究は多岐にわたるため、本稿では、プロジェクト全体の概要を示すと共に、BSEに関する新聞報道の日米比較についての研究結果を中心として記述した。朝日新聞、New York Timesのデータベースより記事抽出を行い内容を分析した。その結果、前者は事実報道が大半を占めて、政策に関する評価や議論を伴わない傾向が著明であった。特にリスクの受容・相対化という観点からの議論は稀少であり、この点が米国の報道との差が大きく認められた。報道記事の絶対数および相対数の双方から見て、市民・政策決定者にリスクに関する議論を整理して理解を深め、場を提供するという機能において、日本のメディアの果たそうとした役割は極めて限定的であったことが示唆された。

キーワード

健康リスク管理、コミュニケーション、比較政策、アスベスト、牛海綿状脳症(BSE)