大気化学に関する実験および理論研究 大気汚染物質の発生、消滅に関する分子理論的機構の解明 ー論理的アプローチー

平成12年度 成果一覧

平尾 公彦(東京大学大学院 工学系研究科)
山下 晃一(東京大学大学院 工学系研究科)
高塚 和夫(東京大学大学院 総合文化研究科)

要旨

上記研究の目的は大気化学におけるさまざまな現象を分子論的アプローチから解明し、大気汚染、環境問題等への提言を行うことにある。ETHおよびMITグループがスペクトロスコピーをはじめとする実験的手法を採用し、われわれUTグループが理論計算から現象を解明する。

平尾は主として分子理論の開発に集中した。特に大規模分子系の電子状態、分子構造を十分な精度でしかも高速に計算する分子軌道法の理論開発およびアルゴリズム開発を行った。具体的には(1)新しいab initio分子理論の開発、(2)相対論的分子理論の開発、(3)密度汎関数理論の開発、(4)ソフトウエアの開発の3つである。特に顕著な業績は(1)Quasi- CASSCF (QCAS)法、QCAS摂動論、CASCI-MRMP法を開発したこと、(2)Douglas-Kroll(DK)法の高次近似を求め、3次DK法が精 度的にも、計算負荷の点からも優れていることを見出したこと、(3)電子密度の展開からパラメータを一切含まないParameter-free交換汎関数 を開発したこと、(4)Dirac-Hartree-Fock法プログラムREL4Dの開発したことなどが挙げられる。

山下は量子クラスターのシミュレーションであるモンテ・カルロ経路積分法を開発し、原子をドープしたヘリウム量子クラスターの分子超流動性の可能性を理論 的に検討した。また極低温ヘリウムからなる量子クラスターの構造決定、量子クラスター内に埋め込まれた原子や、クラスターサイズと超流動密度の関連を明らかにした。

高塚は大気圏化学の中でも、基本的なプロセスの一つである小さなクラスターのダイナミクス研究を行った。小さい分子の速度過程とエアロゾルのような比較的 大きな分子系の動力学をつなぐ線上にあり、その性質の解明は、大気圏環境化学にとって一定の貢献をなすものである。特に小さいクラスターが、高いエネル ギーをもって次々と構造転移を起こすような振動状態(構造異性化反応)に注目し、同時に強いカオス状態にもなっている場合の統計的性質を明らかにし、理論計算から量子スペクトルの検討を行った。