海水中の微量元素と海洋生物生産

平成12年度 成果一覧

野崎 義行(東京大学 海洋研究所海洋無機化学部門教授)
張 燕(東京大学大学院 理学系研究科化学専攻博士課程)

要旨

西部北大平洋の3海盆で溶存銀の鉛直分布を求めた。その結果、銀が表層海水では生物に取り込まれ、粒子とともに沈降し、深海で再生する、いわゆる生物地球化学的循環に組み入れられていることが確かめられた。その鉛直分布は溶存ケイ素の分布に非常によく似ているが、詳細には違っている。西部北大平洋では、溶存銀濃度は2500ー3000mで最大となるが、その深度は溶存ケイ素が最大となる約2000mよりも深い。このことは、粒子から銀の再生がケイ素より遅れることを示唆している。北大西洋と北大平洋での溶存銀の濃度差がケイ素場合よりも大きいこととも矛盾しない。オホーツク海と日本海での鉛直分布も、その生物地球化学と海洋循環過程から説明されうる。

今回もとめた表層海水中の濃度(4.2~8.0 pmol/kg)は、これまでに他の海域で報告された値より大きく、表層水中での場所による変動は一桁以上にもなる。表層水中の微量元素の支配要因は数多いが、銀の場合には生物の取り込みが重要と考えられる。また、表層水では局所的な人為汚染の影響がある可能性もあるが、鉛のようなグローバルな大規模汚染は我々の結果には認められない。